歯科における写真撮影は、術前・術後とを比較する、主にドキュメンテーションに用いられます。使うカメラ、レンズ、フラッシュ、被写体までの距離、セッティング等を知り用意することができれば規格化された写真を取ることができます。この規格化された写真は、術前・術後の比較にとても有用で、日々の歯科診療に取り入れるべきことです。写真撮影の度に被写体までの距離が異なったり、角度が異なったり、ホワイトバランスが異なると術前・術後の比較は難しくなります。しかし、歯科における写真撮影はドキュメンテーションや比較だけではありません。

私の大好きなトピックで「Dental Art」という、歯科における写真の撮り方の講演があります。ドキュメンテーションのみならず写真撮影の楽しみを伝えるこのトピックでは、まず人間の視覚・視野について理解してもらいます。視野は目の前の視認できる周辺視野と有効視野とに分かれます。最近、高齢者による車の事故が増えていますね。これは、高齢になると周辺視野の能力が激減して視野が狭くなるためです。それではまずこの(図01)を見てください。

図01

格子状の線と重なったところの点を見ることができるかと思います。点は全てで12個ありますが、全ての点を一度に捉えることはできません。なぜなら人間の視野、有効視野は狭いので、実際はあまり見えていないということです。それでは(図02)を見てみましょう。

図02

このリトグラフはマウリッツ・コルネリス・エッシャーの有名な騙し絵で、ペンローズの階段、エッシャーの階段と呼ばれています。もしかしたら見たことがあるかもしれません。この階段、見てみると外側の人は階段を登り、内側の人は階段を下がる普通のリトグラフですが、それが永久に続いている!?これは人間が見えて理解できる視野(有効視野)があまりにも狭いため、その目の機能を利用した騙し絵が1900年半ばに描かれました。こういった騙し絵は色々とあるので、探してみてください。これらから、人間の普段見ている、いや、実は見えていないことが意外と多いです。有名ではありますが、この動画では「バスケットボールのパスは何回?」です。ぜひバスケットボールを見逃さないように数えてみてください。

歯科治療において、見えていたと思っていたのに、実は見えていなかったという経験はありませんか?歯科は見て診断する視診があるため、見えていなかったは致命的な事となります。もしかしたら、経験がすごくある先生は「俺は見なくてもできる!」、バスケで言うノールックパスができるかもしれませんが、やはりしっかりと見た方がいいですよね。ここで一つ臨床写真を見てみましょう。上顎右側の臼歯・小臼歯部へのインプラント埋入のケースです。インプラントにおいて、切開し歯肉弁を剥離することは必要不可欠です。レジデントは1本のインプラント埋入は問題なくこなしていたものの、連続のインプラント埋入は初めてでした。興奮、もしくは集中しすぎて視野が狭くなり、インプラント埋入相当部の歯槽骨に集中し周囲組織のことは気に留める余裕も、また直視することもありませんでした(図03)。オステオトミー中、歯肉弁を強固に抑えすぎていたため、犬歯部の歯肉が裂開しました(図04)。ここから得られる教訓は、術野は全体を直視して状況を把握することです。しかし、問題が起きても術中は気付きません。そのため、写真撮影を行い、術後落ち着いた気持ちで写真を観察することで、なぜ失敗してしまったのか?また、だから成功したのか!ということが理解でき、この気づきこそが術者の臨床熟知度を上げる有効な手段となります。

~TAKAの独り言~

今回は視野についてお話ししました。では、拡大鏡、ルーペはどうなの?という質問をこの講義の後に良く受けます。私はオペの時にはルーペ無しか、せいぜいx2.5を用い、形成時は少し高倍率を用います。オペ時に高倍率のループを用いると、術野全体を認識できず、何らかを見逃してしまう可能性があるためです。ルーペしながらのオペはかっこよく見えますが(笑)。“小児歯科における医療安全管理と院内感染対策”のヒューマンエラーをご参考にください。しかし、形成面やマージンの確認には高倍率が必要ですね。見たくないものが見えてしまいます(笑)。